コラム
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呼吸回数の測定について考える
2017.08.29バイタルサインには、血圧、体温、脈拍、呼吸回数の4つがあり、近代はこれにSpO2が含まれている説もあったりする。看護の基礎教育でも、バイタルサインはこれら4つ(もしくは5つ)であることを学んできているにもかかわらず、一般床の体温表には「呼吸回数」が抜け落ちている施設が多いのではないだろうか。
ある時、「呼吸回数を数える必要ってありますか?」と聞かれたことがある。「数値が15、18の違いってないですよね?(測る必要あります?)」と。成人の呼吸回数の平均値は20回/分といわれている(教科書によって若干の数値差はあるが、16-25回/分の範囲が正常とされている)ので、呼吸回数が16であっても18であっても「数値だけみたら」、正常なのだろう。しかし、正常範囲から逸脱しているか否かを考えるためには、「数える」ことから始めなくてはならないのである。そして、呼吸回数を数えるというのは、回数だけを観察するということではないということをあらためて伝えておきたい。数える間に、呼吸パターンを見る、呼吸補助筋の使い方を見る、どのような呼吸の仕方をしているのか見る(口すぼめなのか、楽にしているのか、弱弱しいのか、などなど)、これらは数値だけからは分からないことだから、数えながらそれを観察して「いつもと比べてどうなのか」を記録し、共有していく必要があるのだ。
脈拍は、「10秒(15秒)数えて整脈であれば6倍(4倍)する」方法が取られているだろう。これは、脈拍数が60~80/分ほどあるから整脈であれば4倍という方法を取っているのだ。不整脈の時には30~1分(1分と書かれているものもある)数えていることだろう。脈拍を数え、この数値だけみると76なのと、80なのは、正常範囲である。この状況だと、先の呼吸回数のときの質問と同じように「数値が76と80は違いないですよね?(測る必要あります?)」と同じことになる。けれども、「脈拍を測る必要あります?」なんてことは言わないのである。脈拍は数えることから、リズム、脈の強さやその変化を把握するということが理解できているからなのだろう。「測る必要があります?」という質問は、それらの所見を取ることの必要性(これまで、なぜバイタルサインが臨床上で用いられてきたかの経緯を含めて)を理解していれば出てこない質問であろう。
呼吸を測定するときには脈拍と同じように10秒程度数えて6倍するということは使えない。なぜなら、10秒以内に測定できる呼吸回数は、3回程度であり、これではリズムがどうなのかを評価することは難しいのである。そのため、ほとんどの教科書には30秒~1分測定すると書かれている。呼吸回数は、患者の予後予測や重症度指標の一部としても使用されている。これは、それまでの研究によって得られた呼吸回数とそれらのデータを元にしているからである。
医療職は、その仕事を続けるかぎり学習者でなくてはならない。学習を重ねて「無知の知」(ソクラテスが言ったとされている言葉で、「自分は知らない」ということを自分自身が知る(認める)が必要という意味である)を理解していかなくてはならないのだと思う。特殊なポジションで従事するものこそ、これまで必要とされて行ってきたことを覆したいのであれば、それなりの理由(納得させられる根拠)を自分自身で持って発言して欲しいと思うのである。
東京ベイ浦安市川医療センター
集中ケア認定看護師/米国呼吸療法士
戎 初代